特別寄稿:織原良次「ダリオ・デイッダと私」

私がはじめにダリオ・デイッダを知ったのはJazz Bass Player誌vol.4(2008年)掲載のインタビューでした。

2008年当時、マット・ギャリソン由来の4フィンガーがコンテンポラリー・エレクトリック・ベース・シーンを席巻、ヤネク・グウィズダーラやアドリアン・フェローの台頭、そして80年代からオリジナルなベース奏法を編み出してきたゲイリー・ウィリスやドミニク・ディ・ピアッツァなどが再注目されるようになってきた時勢。そんなテクニカル多弦ベース全盛のトレンディな特集の中でシンプルなフェンダー66年ジャズベースとともに取り上げられていたのがダリオ・デイッダ氏でした。

ダリオ氏の記事は生い立ちや影響を受けたミュージシャンなどについて書かれたごくごく簡素なものでしたが、エレクトリック・ベース奏者の中では特異であるといえるもので、いかにもジャズ・ミュージシャン!というようなバックボーンだったことから興味をもつに至りました。

その後アルバムを手に入れたりMySpaceやYouTubeでチェックするようになり、ダリオ氏のモダンジャズからのインプットの純度、そしてその練度とアウトプットは、今までのエレクトリック・ベース奏者が誰も獲得できなかったものだ、と認識しました。

例えばジャコ・パストリアスからの影響の強い奏者はわずかながら存在しますし、ジャズを演奏する、というエレクトリック・ベース奏者は数多くいます。

が、ダリオ氏のアプローチはジャコ・パストリアスが確立した伝統や長い歴史があるように感じさせる奏法の完成度と、アコースティック・アンサンブルを想定した音作りを消化したもので、かつ、優れたミュージシャンの一部だけが獲得できる超ジャズ的な語彙を持つ、一流のジャズ・ミュージシャンをも唸らせる稀有なものなのです。こんな能力を獲得したエレクトリック・ベース奏者は、史上初めてだと思います。

エレベでジャズ、というといろいろな知見がありそうです。

モンク・モンゴメリーやキャロル・ケイ、タイロン・ブラウン、ジェローム・ハリス、ジェームス・ジナスなどの圧倒的なジャズ・エレクトリック・ベース・ランニングを実現させたレジェンドや、真に誰とも違うアプローチを産んだスティーブ・スワローとは180度違いますし、ジェフ・アンドリュースやリック・レアードがチャレンジしたジャズ・イデオムよりも圧倒的に深度があり、当時ジャズ・エレクトリック・ベース・ソロ・アプローチの金字塔であったヴィクター・ベイリーの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」のような内容のメロディー・ラインを、日常レベルでそれ以上のものを繰り出し続けることができる、という点で上位互換…

ダリオ氏のジャズ的な語彙は、テクニカル系のエレクトリック・ベース奏者にありがちなスケールをただ単純に網羅して連結しているようなものではなく、ジャズ・レジェンドからもたらされた圧倒的な歌心がソースとなっているようです。

個人的な見解では、「ブルー・トレーン」以降からセロニアス・モンクと共演しているあたりまでのジョン・コルトレーンの影響を強く感じます。そしてビ・バップ・フレーズの端々にみえるオーナメントはチャーリー・パーカー由来であることは確実です。

例えば、チック・コリアやマイケル・ブレッカー、ミシェル・ペトルチアーニ、ジョー・ザヴィヌルを大量にトランスクライブしたと語るアドリアン・フェローは、メロディック・マイナー・アプローチを体得した上で、歌心と超正確なテクニックと驚異的なリズム感を纏った現代最高峰のジャズ・エレクトリック・ベース・プレイヤーだといっていいと思いますが、彼をしてダリオ氏のボキャブラリーは「Amazing」と言わしめるほどの、1940年代初頭〜60年代初頭のジャズをリスペクトするレペゼン純モダン・ジャズ語彙なのです。

完全なジャズとしかいいようのない氏の歌心は、今までエレクトリック・ベースから聴こえてくることはほとんどなかった、と言っていいレベルなのではないでしょうか?

ただ、エレクトリック・ベース奏者のなかにそういった語彙のバックボーンを理解できるようなジャズを強く愛好している人口が少ないためか、上記のトップ・ランナー・エレクトリック・ベース奏者と比べたら地味に聞こえる可能性すらあるでしょう。

ただ、私の眼にはこのモダン・ジャズ純度の高い歌心はどんなに速く、過激なプレイをする奏者よりも輝かしく見えます。

同時に険しい道でもあったはずです。

先程からハイ・テクニックであることを否定的に捉えられてしまうかのような、誰も頼んでいないのにジャズ右翼の老婆心的な内容になっていますが、技術的な観点から見てもダリオ氏の到達点は相当なもので、ジャコ・パストリアスの奏法に関しても史上指折りの解釈、AJ(After Jaco Pastorius)世代のコンテンポラリー・フェンダー・ジャズ・ベース奏法としてはドレッドノート級の完成度を誇っていると思います。

具体的にいえば、

1. 右手の奏法
オルタネート奏法とミュート奏法がジャコ由来のルールにのっとった確固たる奏法に落とし込まれていること。

2. ハーモニクスの理解の深さ
コード・アプローチとしてのハーモニクスはもちろん、1弦7fpのD音のハーモニクスから素早く8〜9fpにスライド、実音と見紛うようなE音、F音を自然にフレージングに用いる様は驚愕です。

3. ニュアンスの付け方の豊かさ
ピッキング・ポジションの弾き分けを具体化して、メインのフレッテッド・ベースでも表情豊かなメロディー・ラインを実現しています。

4. アコースティックな編成での音作り
音域をローに偏らせすぎることはなく、むしろトーンは常に全開、よりはっきりした音質を作り出すことで電気楽器であるにも関わらず現実味のある音色でアコースティック楽器と同じようなアンサンブルを可能にしています。

加えて様々なジャンルに濃く触れているであろうことも感じ取れる、エレクトリック・ベースそのものへのリスペクトとユーモアも兼ね揃えているという…。

2016年、ダリオ氏の初来日時にジャズ・エレクトリック・ベース奏者の高橋将くんが主催した第3回エレキベースビバップ研究会のゲストにダリオ氏と合流することにより、より鮮明なダリオ・デイッダ像を掴むことができました。

※第3回エレキベースビバップ研究会のレポート
http://orioriori.exblog.jp/25751914/

私も超少数派、絶滅を危惧されたことすらない変態亜種である専業フレットレス・エレクトリック・ベースによるジャズ演奏家として、繰り返し上記している氏の‘モダンジャズのインプットの純度と練度’はとても刺激になりましたし、今後自分が電気楽器奏者としてどういう存在でいたいのか、さらに考える機会となりました。純度の高いインプットと、ひたすらにジャズを追求してきたであろうダリオ氏は最高峰の表現者であり、私にとって目標でもあります。上記研究会にて共演も果たすことができ、そこで得ることができた収穫はかなり大きいです。

再びダリオ氏の来日を果たすためにも、1人でも多くの人に氏の偉大さが響くといいな、という思いとともにこの文をしたためました。

管理人である杉山氏の並々ならぬダリオ愛とエレクトリック・ベース愛に畏敬の念を添えて。

フレットレス・ベース奏者
織原良次
http://orioriori.exblog.jp/


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